名古屋工業大学図書館報「@Library」

「@Library」は、名古屋工業大学図書館のブログ版図書館報です。詳細は、http://profile.hatena.ne.jp/nitlib/ をご覧ください。

まずは辞書から

「○○について、××という視点から論ぜよ」
えーっ・・・
授業で出された課題のテーマがあまりに壮大すぎて立ちすくんだ経験のある方、いませんか。
「茶道の歴史を系統的にまとめて発表」という演習のお題目をもらった当時大学2年生の私は、立ちすくむを通り越して体が硬直する思いをしました。闇雲に文献を集めてみるも、もがけばもがくほど収拾がつかなくなるばかり。発表は、手元に抱えた資料の切れ端を無秩序に並べただけの、酷いものでした。
茶華道を始めとした日本文化研究を牽引する存在でもあった恩師。これから浴びせられるであろう叱責に怯えて目も上げられずにいた私へ、「大変だったねご苦労さま」という労いと共にかけてくれたのは、こんな言葉でした。
「研究を生け花に例えると、その美しさは手元に集めた花材をよく見て削ぎ落としていくところにあります。花材を集める時に大事なのが、その順番です。まずは辞書から。前提知識がないときは俯瞰的な百科事典から始めて、言葉の意味や基本文献をきちんと押さえることで、全体が見えてきます」
あれから20年以上経ちますが、今も折に触れてこのフレーズを記憶から引きだしています。
そして、そんな私から名工大に所属する皆さんに「Japan Knowledge Lib」をご紹介したいと思います。

http://japanknowledge.com/library/


日本大百科全書など定評のある百科事典の
ほか、専門分野の事典類や叢書類も検索できます。Wikipediaと異なり、出版社が責任を持って編集をしたタイトルが収録されています。リモートアクセスで自宅からでも時間を問わず使えるというメリットもあります。
先日、物理学者の寺田寅彦をこのツールで調べました。随筆家としても知られている彼を検索すると、多くの辞書にその生涯や執筆作、彼に関する研究書といった参考文献が記載されていました。興味は尽きなくなり、更に検索ボックスのプルダウンを「見出し」から「全文」に変えて検索してみると、東洋文庫に所収された意外な文献の1ページにもその名前があることを発見。彼のような有名人・もしくは事柄でない場合でも、糸口をつかむきっかけになることを確認したところです。
今キャンパス生活を送る学生さん、立ちすくんだ時には、ふとこのコラムを思い出してもらえたらと願います。

 恩師の影響もあって大学卒業後に始めた茶道を、現在まで細々と続けています。稽古場は今年3月まで居住していた東京にあり、4月以降も通う予定だったのですが、コロナ禍で思わぬ足止めを食らっています。写真の棗はお気に入りの茶道具の一つで、今はこのフォルムの美しさに癒されながら、自宅でひっそりお茶を点てています。

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