今年11月から名工大図書館一階にオープンアクセス※1に関するコーナーが設けられています(画像1参照)。
※1論文のオープンアクセス化とは、査読付きの学術雑誌等に掲載された論文を誰でもインターネットから時間や場所の制約なく無料でアクセスし入手できるようにすること(日本学術振興会「科学研究費助成事業」より)
画像1:オープンアクセスに関するコーナー 画像2:学術論文雑誌をオープンアクセスにする方法
査読論文をオープンアクセスにすることで利用者はジャーナルを無料で利用することができますが、著者は出版社にAPCを支払います(画像2参照)。
出版社のAPCによる収入がなければジャーナルの維持管理のために利用者が購読料を支払います。
ジャーナルの購読料は年々、高騰し研究環境によっては支払うことが難しくなってきています。
価格高騰の要因は「商業出版社の学術雑誌寡占化」によるものでした。
こんな状況をブレイクスルーしたいと「インターネットに繋げられれば対価なく論文が読める環境へ」が1990年代より、世界の関係団体等から提唱されるようになりました。
論文といえば・・・・
最近、ドストエフスキーの「罪と罰」をリビングで読み始め気になる幾つかの単語に出会いました。
「罪と罰」には“論文”というワードが何回か登場しストーリーを支える軸の一本となっています。そこには主人公の投稿した論文が定期刊行物に掲載されているから原稿料が入るはずだという行(くだり)があります。
定期刊行物を購入する読者がいるため著者は支払いの負担がなく原稿料までもが支払われるのです。
時代背景や論文の形態等が異なるので比較は難しいのですが“論文”の文字に遭遇するたびに冒頭の行が頭をよぎり続けました。
さらに「罪と罰」で“論文”以上に登場する回数が多いのは生き物に関する単語で馬車の“馬”のような現実的な動物から“二兎を追うものは一兎をも得ず”のような諺や比喩によるものなどがあります。
そこで諺や比喩は翻訳者によって翻訳内容にどのくらい違いがあるのだろうかと気になる部分を比較してみることにしました。
最初に目についた“月とスッポン”で2出版社による比較を試みると新潮文庫の工藤精一郎氏訳(名古屋工業大学図書館所蔵)では“月とスッポン”が文中に登場しましたが青空文庫<Master Copy角川文庫>米川正夫氏の訳には登場しませんでした。
原文(露文)では何と綴られているのだろうと手近なところにあったスマートフォンで検索してみたところ原文どころか“月とスッポン”に関する記述にすら辿り着くことができませんでした。
図書館での現物による調査や検索エンジンの変更、有料誌で探せばどこかにあったかもしれませんが「罪と罰」の続きが気になったので検索は一旦、ここで終了することにしました。
罪と罰をさらに読み進めていくと“蜘蛛”が登場してきました。
今度は芥川龍之介の “蜘蛛の糸”とドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」のなかで語られる挿話“一本の葱”が似ているのも気になりだしました。
どちらも地獄に堕ちた者の小さな善行を過大評価することで救済措置がとられるが・・・という物語
これらはポール・ケーラス(Paul Carus)の『カルマ(Karma)』のなかの一編に由来するといわれています。
こちらも早速、スマートフォンで検索してみると諫早勇一教授による「カラマーゾフの兄弟」のなかの“一本の葱”の翻訳について原文と翻訳者らによる違い等に触れている興味深い考察に出会いました。
『なお,参考までに米川正夫氏以外による当該個所の邦訳をいくらか引くと、
原久一郎氏(新潮文庫)「みんなこぞってその葱にしがみついた」
中山省三郎氏(角川文庫)「みんなでその葱につかまりだしたの」
小沼文彦氏(筑摩版全集)「みんなしてそのお葱につかまりはじめたのです」
北垣信行氏(講談社文庫)「みんなしてその女にしがみついて」
池田健太郎氏(中央公論,世界の文学)「我も我もとお婆さんにつかまりだしたの」
原卓也氏(新潮,世界文学)「みんなして女にしがみついたんですって」
江川卓氏(集英社版,世界文学全集)「みんなしてお婆さんにつかまりました」』
(諫早勇一 "The onion broke"―『蜘蛛の糸』と『カラマーゾフの兄弟』をめぐる若干の考察. 信州大学機関リポジトリ, 1985, P.5)
ここで利用した機関リポジトリについては内閣府科学技術・イノベーション推進事務局発表の「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」により2025年度から大きな変化を迎えます。(画像3参照)(画像4参照)
画像3:学術論文等の即時オープンアクセス義務化 画像4:国としてのオープンアクセスの方針
インターネット環境が整っていればオープンアクセスは無償で全世界の人に論文を読んでもらうことができます。
災害や深刻な疫病の研究においても迅速な情報共有が可能になり、論文が引用される可能性が高まる等多くのメリットが期待できる有益なシステムです(画像5参照)。
画像5:オープンアクセス(OA : Open Access) 画像6:名古屋工業大学オープンアクセスポリシー
リポジトリへの登録が加速化されることによる問題発生も懸念されますが、リビングで気軽に検索したワードでも興味深い研究成果へと結び付けてくれる可能性も高まります。
今後、リポジトリへの論文等の登録が加速化されます。
気軽にリポジトリをのぞいてみてはいかがでしょうか。
名古屋工業大学学術機関リポジトリ
https://nitech.repo.nii.ac.jp/