名古屋工業大学図書館報「@Library」

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自分の中の斧を研いでみよう

コロナのニュースで「自宅療養すべきだ」なんてこと言っていたりしますよね。
そこでふと思ったんです。
コロナという未知のウイルスは、どんなに気をつけても感染するリスクがある。ですから、自宅療養をするということは家族に感染しちゃうリスクを受け入れなければなりません。つまり、「自宅療養しなさい」という命令は、世間のみんなを守るために家族を犠牲にしなさい、という側面があるとも言えそうです。
ちょっと極端に考えますと、10人の他人の生命を守るために、家族2~3人(くらい?)の命を犠牲にしないさい、と言っているとも考えられるわけです。
でも、それって正しいことなんでしょうか?
私があげた本は、とても有名な「トロッコ問題」と言われる哲学問題を題材に、いろいろな考え方があるんだなぁということを提示してくれる入門書です。
 
トーマス・カスカート著 ; 高橋璃子訳 かんき出版     2015.11
請求記号:150||C26     図書ID:1339291
  
走行中のトロッコのブレーキが故障していて、そのまま放置すると線路を整備している5人を轢いてしまいます。一方で、目の前には切替機があって、それを操作するとトロッコの進路を変えることができるのですが、その先にはやはり1人の整備士がいます。
Aさんは、とっさに切替機を操作し、結果5人の命を救ったのですが1人の命を犠牲にしてしまいました。
Aさんは罪に問われるべきでしょうか。
これが「トロッコ問題」です。
さて、冒頭の「自宅療養」の問題と「トロッコ問題」とちょっと似ているところがありませんか?
ややもすれば、多様性の時代、いろいろな考え方があるから、絶対的な答えなんかないと投げやりになっていませんか。直感に従うしかない、と言って自分の殻の中に閉じこもっていませんか。
もちろん、多様な価値観尊重することは重要ですし、私たちの直感には普遍的な価値があることも否定できません。
ですが、思考をやめてしまっては、いつの間にか自分がいなくなってしまいそうです。
「斧を研ぐことは、木を切ることより大事でしょうか? いいえ、そんなことはありません。でも斧を研がなければ、上手く木を切ることもできません。同じように言語と論理というのは、人生の問いにくらべれば小さな問題にすぎません。しかし言語と論理を知らなければ、適切な答えを導き出すことはできないのです」(61頁)
 
ご自宅で過ごす時間、自分の中の斧を研いでみてはいかがでしょうか。
 
「哲学」と言えば、今年の3月ころ、恩師から「中日ドラゴンズを哲学してみた」という「?」なメールを頂いたのを思い出しました。小さい個人出版社を応援するために印税なしで執筆したのだそうです。ドラゴンズ好きの方はぜひ!

朝日新聞デジタル   愛知) 強竜復活のヒントは…哲学者が提言本を出版(2020年4月6日)