名古屋工業大学図書館報「@Library」

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学長インタビュー『読書を通じて人生の師匠を見つける』

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  毎年、新入生に向けての学長挨拶で「趣味は読書」とお話しされる鵜飼裕之学長に、『読書週間』の機会に学生と一緒に直接お話を伺いました。
 「本は常に傍らにあって人生を歩んでいくパートナー。人生観、世界観を培っていくための糧」と語る学長。ご本人の読書歴を通じて、どのように本と付き合って来られたかを明かして下さるとともに、学生の皆さんへメッセージを送ってくださいました。                 (取材日:2019年10月21日)

 

「のめり込む」読書 

>>小学校~中学校時代
 あまり本に触れることかなかったが、小学校時代は自宅にあった偉人伝を読み、過去に偉業を成し遂げた方の人生に興味を持った。
 中学校時代は受験勉強の傍らSFにはまり、雑誌『SFマガジン』に掲載される作品が面白く、星新一、小松左京、筒井康隆など当時は駆け出しの若い作家やアイザック・アシモフ、レイ・ブッラドベリ、アーサー・C・クラークなどSFの大家を知った。少し観念的な文章で奥が深く、宇宙や未来ものであっても作家の考え方や人生観、世界観が表れていた。

>>高校~大学時代
 高校は進学校に進学し、周りの優等生に触発され読書に対する考え方が、がらっと激変する。学生紛争が激化していく時代背景の中、学生が現代国語の授業を授業ジャックし、三島由紀夫『金閣寺』を題材に、今でいうテキスト・クリティックの手法でグループワークをし、なぜ金閣を燃やしたのか?時間をかけて読み、内容についての理解を深めていく。もともと読んだ事の無いジャンルで、じっくり、深く読むことの楽しさを知った。そこから夏目漱石、森鴎外、谷崎潤一郎・・・、近現代文学の大家を読み、文学というものに触れ始めた。また、石川達三、高橋和巳、埴谷雄高など同時代小説、思想的な文学にも触れていった。
 同時に、世の中の動きを知るために、様々なものを読んだ。その中で『共同幻想論』はじめ吉本隆明という思想家の文章に引き込まれた。非常に共感し、人間的にも惹かれた。吉本が書評に取り上げた本など吉本を起点にして引っ張られて色々なものを読み漁った。

 大学に入学すると、のどの渇きを潤すように読書はさらに加速した。文学作品、思想を深く読み込む、そのような読書は、深いことを考える力、きっかけ、訓練にもなったが、何か未消化で満たされず、一方で娯楽的に自分を満足させてくれる刑事小説、探偵小説、冒険小説にのめり込んだ。エド・マクベイン、レイモンド・チャンドラー、ロバート・ブラウン・パーカー・・・、シリーズ物は主人公中心に色々なことがおこって、主人公を取り巻く仲間が一緒になって解決していく。1作ずつテーマが違う。その世界にはまって、シリーズ全部読む。好きな作家、作品にのめり込んで読んでいった。
 大学4年生になると、卒業研究や大学院進学を目指す中で専門書に夢中になった。卒研で出会った本の世界からつながる様々な専門書を読んだ。大学院進学後も閉架書庫に通い、専門書を掘り起こしていった。

 娯楽的な読み物にのめり込む、専門的な分野にものめり込む。それぞれでのめり込む読み方をしていた時期だった。

>>その後
 家族、子供・・・、生活が変わって忙しくなると読むのに気力を使う本はくたびれる。そんな時、藤沢周平の歴史小説に出会ったことは大きい。武士、町民らの姿を完成された素晴らしい文体で綴る稀有な作家で、『密謀』などは複数冊所蔵し、何度も繰り返し読んでいる。一人の武将が何を考え、どのように生きたか。熟練してくると深みがでてくる、一生の宝。
 司馬遼太郎など他の作家も読み、歴史に興味が広がった。作家の持っている世界観を通じて歴史を見ることができるのが歴史小説。日本がどう形作られたのか、世界が劇的に動いていく当時、日本の若者が何を考え、どう突き動かされていったのか、過去を学ぶだけではなく、過去がどう現在につながり、どう未来につながるのか歴史の連続性を知ることが大事。

 こうして、様々にのめり込むことによって、少しずつ興味・読書の幅を広げてきた。好きな作家でも、共鳴するもの、しないものがあり、触れた作家に対して批判的になることも大事で、作家と対話しながら得たものを糧として人生観、世界観を培う読書をしてきた。

 

 学生の皆さんへ 
 色んなことに興味、好奇心を持って大学生活を送ってください。雑誌の記事でもいいので、読むことを習慣にするといい。皆さんが共鳴する本、作家、主人公がいるはず。人から言われて見つけられるものではなく、その人なりに見つけるもの。そういうものにのめり込むことができれば、読書に対して関心が持てるのではないでしょうか。
 これから、AIはじめ科学の進歩により、どんな世界になるのか分からない時代。科学者、技術者、研究者を目指す皆さんは、色んな人の考えを知り、人間はどこに向かうのか?を自分の中で整理することが大事。まずは共感できる人が一人でもいると救われます。読書を通じて人生の師匠を見つけましょう。

 

 おすすめ図書 
インタビューの中でもたくさんの作家や作品をご紹介くださいましたが、最近読まれた本の中で、学生のみなさんにこれからのヒントになる、おすすめ図書を3冊ご紹介いただきました。 

レオナルド・ダ・ヴィンチ 上・下
ウォルター・アイザックソン著 ; 土方奈美訳  文藝春秋 , 2019.3
請求記号:702.37||I 68||1(上)702.37||I 68||2(下)
図書ID:1337926(上)1337927(下)

 伝記。技術とは何?技術者とは何?の原点は、芸術家、技術者、科学者であったレオナルド・ダ・ヴィンチである。生活のために貴族をパトロンとして芸術家として才能を発揮、一方、戦争のための武器製作や治水設計を行うなど様々な側面を持つダ・ヴィンチを、スティーブ・ジョブズに要請されその伝記を書いた著者が描く。

ホモ・デウス:テクノロジーとサイエンスの未来 上・下
ユヴァル・ノア・ハラリ著 ; 柴田裕之訳  河出書房新社, 2018.9
請求記号:204||H 32||1(上)204||H 32||2(下)
図書ID:1337924(上)1337925(下)

 「サピエンス全史」の著者が描く未来の予言書。AIの本。イスラエルの人類学者で宗教観も入ってくるため、理解しにくいところもあるが、生物という観点で人間を見ている。AIによって社会システムが作られていく未来、人間は不要になるのか?人類はどうなっていくのか?

都市と野生の思考
鷲田清一, 山極寿一著  集英社 (発売), 2017.8
請求記号:914.6||W 42 図書ID:6011422

 哲学者とゴリラ研究の世界的権威が多岐にわたるテーマを題材に対談。ゴリラからどう学ぶか?都市と人間、人間とはどういう存在であるか、AIの進化に対して人間は?入門書として読みやすい書。

 **おすすめ図書3点のほか、ご紹介いただいた作品等の展示を新着図書コーナー横のスペースにて行っています**

 

 学生インタビュアーの感想 
・Aさん(情報工学科 学部4年生)
 先日、学長のインタビューに同行し大変貴重なお話を伺いました。
お話のなかで「読書はその人の人生観・世界観をつくる」という言葉が印象に残りました。図書館では、内容によって本が大まかにジャンル分けされますが、それとは別に
「この本が自分の人生においてどういう位置づけなのか」
「読書によって自分がどう変わったのか」
ということを考えると、今後の読書人生ががらりと変わる気がします。
これから読書をしていく中で、自分の「師」となるような本や作家を見つけていきたいです。

・Bさん(社会工学科 学部3年生)
 今回は読書家である学長に、これまでの読書歴と、読書を通して様々な思想、知識、考え方に触れてきたことを話していただきました。ジャンルは問わず、好きな作者、主人公を見つけて追いかけていくこと、そして作者と対話していくことが読書の楽しさを知るきっかけとなるのではないかという学長のお話から、普段は何気なく気になった本を読んでいた私も好きな作者や主人公を探してみたいと思いました。また私は歴史に対しての苦手意識があったので、今後は小説を通して歴史に触れる機会を作ろうと思いました。